グリーンおじさん雑記帳

VRChatでの日々やVRまわりのことに関するメモなど。

『VRおじさんの初恋』感想

はじめに(2022年版)

書きかけでこの記事を下書きとして保存したまま気づけば1年以上経っていました。

VRChat(以下、VRC)が生活の中の一つの大きな要素として存在している自分が『VRおじさんの初恋』の感想を書くならば、自分がVRCでどういうことを感じて生きてきたかも絡めて書くべきだろうと思っており、一方でそうすることは必要以上の自己開示のようにも思えて筆が進みませんでした。なんとなく、そろそろいいかなという感じがしたので、書き進めていくことにします。

 

はじめに(2021年版)

これを読んでいるVRCユーザの方々には周知の事実だと思いますが、先日*1、『VRおじさんの初恋』の第二部が完結し、単行本が発売されました。この作品がもっと多くの人に知られるようにするためにはTwitterにタイムリーな感想を書きまくるのが良いのでしょうが、日々VR生活をともにしているVRCユーザのフォロワーたちに直送するのはちょっと恥ずかしいので、ワンクッション置いてブログに書きます。

昨年*2Twitterで流れてきた第一部を読んだのが最初の出会いでした。あの頃は続きが読みたいと思いつつも、読めるようになるまでに越えるべきハードルを越えていくのは簡単ではないだろうとも思っていたので、第二部が始まり、無事終わりを迎えることができたこと、素敵な装丁の単行本が発売されるようになったことには驚きつつも本当に嬉しく感じました。

 

人生が二度あれば

私は以前、「感傷マゾvol.04『VRと感傷特集号』」*3に寄稿した文中で「VRChatでは元の容姿や社会的地位に現実世界よりはとらわれずに他者との関係性をやり直すことができる。おじさんでももう一度青春の機会を得ることができる。」と書きました。言い換えると、VRではおじさんも(基底現実*4よりは楽に)友情や恋愛を経験するかどうかの選択の機会も含めてやり直すことができる、ということです。現実よりは楽に、と補足しているのは、いずれのフィールドを選ぶにせよ他者との関係性であることは変わりがないので、それに伴うネガティブな要素がVRだからといって全部消えてしまうなんてことはないからです。少なくとも私の経験に基づけば。それでも、VRには救い(?)の可能性があるのだろうと思っています。自他共におじさんと認めるような年齢と肉体になり、現実ではもう人生をやり直せないと感じている人間*5にとっての救いです。

VRおじさんの初恋』の主人公、ナオキは子供の頃にはいじめに遭って、大人になってからも「ゆーっくり歳をとるくらいしかできることがなくって、いつか働けなくなったら『詰み』…」(p.57)というロスジェネ世代のおじさんです。彼は現実の人生において初恋をする機会を持ちませんでしたが、VRの人生において初恋をする機会を持ちました。だからといって現実の肉体的・経済的な詰みの状況はほとんど変わらないだろうけど、きっと人生を生きる価値のあるものにできたのだと思います。それは結果論であって、現実の人生で恋をしたことがない人がVRの人生で恋をすれば救われるわけでは必ずしもないでしょう。現実でもVRでも恋を必要としない人生はあると思いますし、恋の末に心に深刻な傷を負い再起不能になることもあると思います。初恋を別の「初○○」に変えても同じようなことは言えるでしょう。それでも「人生が二度あれば」と思った時にVRの人生という可能性が開かれていることはひとつの救いだと思っています。

二度目の人生的な場としてはVR以外にも現実にある趣味のサークルや地域社会の活動が有効な場合もあると思います。何が違うのでしょうか? VRが優れていることの一つとして世界そのものが現実とは別のもの、異世界であり、そこに新しい身体を持って生まれ変わることで、現実の世界と肉体の制約に縛られない思考をしやすくなるという点があると私は考えています。誰かがTwitterで言ってましたが、ある意味で異世界転生なのでしょう。

私たちの心は体に決められる

望む望まないに関わらず

性別 年齢 健康状態…

そういうもので心の輪郭も作られていく

でもVRの世界で私達は現実と違う体で出会って

その体でしかできない約束をした

体が変われば

心が触れ合う場所も変わる

あれは確かに同じ私たちだ

(『VRおじさんの初恋』p.169,170)

 

VRでの恋愛を経験した身として

なんで『VRおじさんの初恋』が自分に刺さるかといったら、上述してきたようなことや自分がロスジェネ世代の片隅にいる*6のもありますが、私がVRでは美少女の身体を持ち現実では男性の身体を持つ者同士かつ年齢差*7のある関係での恋愛を経験したことがあるのが大きいと考えています。私はVR恋愛が初恋ではなく現実に異性のパートナーがいたこともありますが、「もう残りは消化試合だ」と思っていた人生についてもう少し続きをやっていこうと思えたのはVR恋愛を始めとするVR生活を通じてでした。

なんとも陳腐な話だなあ(これは自分の上記経験について)と思う自分も私の中にはいますが、VR生活をして感じるあれこれについて私自身にとってはかけがえのないものならこのブログに残しておくのがいいだろうと思い書いておきます。

もっと生々しい具体的な話を書いた方が読者の関心を惹くだろうし説得力が増すかもしれないけど、自分のVRCのアカウントと紐づけられる場で書く気はちょっとしないのでこの辺で終わりにしておきます。

 

 

*1:2021年春

*2:2020年

*3:

https://booth.pm/ja/items/2264266

*4:以下、単に「現実」と呼ぶ。

*5:人生常に今が一番若いとか、伊能忠敬など偉人の例を挙げて説教をすることはできますし、そういう話に一定の意義は認めますが、それは今回する話ではないと思っています。

*6:少ない椅子の椅子取りゲームをなんとか生き残った結果としてナオキよりはかなり恵まれた境遇にいるとは思います。

*7:私がホナミ側ですね。